※このレポートは、夫が私と知り合う前(というか丁度私が手塚ファンクラブ入会当初)に書いていたもので す。

充実の参拝
 

田浦誠治(手塚 ファンマガジンvol.109掲載)
 
 大晦日の夜中から元旦の朝にかけて夜を徹して宝塚の清荒神に出かけるのがここ数年、 私の年中行事になっている。

 この正月も例年通り初詣に行ってきたわけであるが、今年は初詣をすませてすぐ帰宅、と いうわけにはいかなかった。それは年末に会誌108号で、1月1日より記念館でブラック・ジャック展が開かれることを知ったからである。清荒神と記念館は 電車で一駅ちがい、殆ど目と鼻の先である。これは行かないわけにはいくまいと、意気込んで宝塚に向かった。

 清荒神の御休み処、喫茶店をハシゴして夜明けを待つ。午前8時半、まだ開館まで1時間 前だったが記念館まで行って道を隔てた向かいの喫茶店で待っておこうと考えた。

 私は、今日は元旦だし午前中は入館者もまばらだろう、もしかして開館して1時間は誰も 来ないかもしれぬ、と考えていた。となると私がB・J展に一番乗りをすることになる。初詣ならぬ初手塚、書き初めならぬ手塚初めだ。こいつぁめでたいぜェ などと一人ニタニタしながら館へと向かった。

 ところが!ところがである。元旦の早朝にもかかわらず、しかも開館1時間前であるにも かかわらず、既に数人が入り口付近で待っていたのだ。女性3人組、カップル一組、そして高校生とおぼしき男子一人の計6人だった。むむむ…と唸った。恐る べし手塚ファン。わたしと同様清荒神へ初詣に行き、その足で記念館を訪れたのだろうか。それにしても元旦の朝っぱらからもう待っているとは…あなどれん。 私はもしかしえこの人々はFC会員かもしれぬと思った。さては私と同様年の初めの一番乗りを企てたか…。もしFCの会員ならば、あの日の朝、火の鳥のモ ニュメントの下で寒そうに縮んでいた黒いダウンジャケットに黒いジーンズという全身黒づくめの(別段B・J展だから黒できめてきたわけではない)怪しげな 男が私です(笑)。

 喫茶店で野菜ジュースをすすったり、火の鳥のバックナンバーをパラパラめくったり、百 鬼丸の足形を眺めてこの型は義足のものか本物の足のものかどちだなどと意味のないことを考えたりしながら開館を待った。少し近辺をブラブラと散歩したちし て10時半に入館した。記念館にはいるにはこれで2度目である。相変わらず職員は美人だ(笑)。

 さてB・J展であるが、これはなかなか感心させられた。壁面にとりつけられた名場面、 名セリフの数々…。衝撃的なカットの連続で初めて訪れる人もちょっと見入ってしまうのではなかろうか、と思った。更にはピノコが背の伸びた自分を眺めよう とした湾曲ミラー。こんなものまで、と思わずニヤリとした。ピノコと同じく顔面が横につぶれた自分を見ようかと思ったが、黒づくめの変なやろうが怪しい行 動をとっているなどと思われるのも癪なのでやめた。再びこんなものまでとニヤリとさせられたのは手術道具一式の展示。これは何故か親子連れのお父さんたち がやたら集まり、真剣そうに眺めていた。また私にとって圧巻だったのは生原稿の展示であった。もうガラスに接触する程近付き、穴のあく程眺めた。ムラのあ るスミベタ、ところどころに施されたホワイト、鉛筆書きの上に切り貼りされた写植の印画紙等々。実に生々しく、手塚先生の息づかいまで聞こえてきそうだっ た。

 やはりこういう企画展は良いと思う、手塚マンガといえば、アトムやB・J、リボンの騎 士くらいしか知らぬ人に手塚マンガの多様な世界を知ってもらうキッカケになる。今日もファミリーランドが開いていたせいかちいさい子連れの家族医がやたら と来ていた。幼い頃の鮮烈な印象はかなり後にも残るものである、この子たちは、まァB・Jはどうかわからぬが、アトムやレイたちを胸に焼き付けただろう か…などと思いめぐらせながら館を出た。

 元旦早々充実した一日だった。これから毎年正月には清荒神、記念館と2ヶ所に初詣に行 く事にしよう。


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