手塚治虫とトリビュートマンガ展を見て
 
田浦誠治 

  記念館の企画展「手塚治虫とトリビュートマンガ展」を見に行って参りました。入り口を入ってすぐの 壁面にこんなメッセージボードがありました。「(手塚作品を)トリビュートするアーティストたちは、手塚作品に新しい表現、新しい解釈、新しい発想を加 え、別の作品を誕生させる、そして、自分自身の思いと手塚作品のメッセージを伝えていく」
 
 現在のトリビュート作品の中で、このメッセージ通りだと 即座に言えるのは浦沢直樹氏の 『PLUTO』だけである!と私は思っていました。ところが、展示内容で真っ先に目に入ってきたのは「ASTORO BOY BY OHYA」。な〜るほど、トリビュートってのは何もマンガだけではないんだよね。好き嫌いは別としてOHYAは確かに“新しい表現”“新しい解釈”“新し い発想”でもって“別の作品を誕生させ”ている。いきなり私の先入観をガーンと叩き壊してくれた記念館スタッフにまずは脱帽。次に展示されていたのは当然 のごとく『PLUTO』でした。これはもう文句なしにトリビュート中のトリビュート。今や私も『オリジナル』誌での月イチ連載が待ち遠しいし、コミックス でまとめて読んではドッキドッキするハードボイルド大河ドラマです。展示では原作の各ロボットキャラ達と『PLUTO』で描かれた各人が一目で対比できる ようなデザインパネルもありました。まったく、これだけを見ても浦沢直樹氏の並々ならぬ力量と、「地上最大のロボットの巻」に対する深い思い入れを感じる ことができます。トリビュート=原作にそっくり似せて描くこと(ストーリー・キャラデザともに)では決してないという、まァ当たり前といえば当たり前の事 をしっかりと認識させてくれるのが、この『PLUTO』です。しかもとりわけこの作品がすばらしいのは、手塚作品を焼き直しました、ではなくてひとつの浦 沢作品となっていることです。とにかく私はこの企画展で改めて『PLUTO』は“地上最大のトリビュート”だ!との思いを強くいたしました。
 
 しかしながら、それ以外の諸作品が…。実はまともにこれ らを見たのはこの展示が初めてだったので すが、OHYAのオリジナリティの高さ、『PLUTO』の凄さが先に私の大脳を刺激したせいか、正直う〜んと唸ってしまわざるを得ないのでありました。絵 柄が感情移入できないからでしょうか?確かにそれはあるかもしれません。しかし、展示されている原稿を見ますと、例えば『ブラック・ジャック』。「二人の 黒い医者」が描かれておりましたが、ストーリーもセリフも殆ど原作と変わりない。違うのは絵柄だけ。しかも絵柄が違うといっても、B・JはあきらかにB・ Jだし、キリコは右から見ても左から見てもキリコなのです。決して下から見たらピノコだったりはしないのです。似せて描くことがトリビュートではない、と 私は書きましたが、その対極の意見としてオリジナルに似せて描く事もまた、トリビュートとしてあり得るひとつの姿だというのも、首肯せよと言われれば致し ますが…。そんなワケで全体としては複雑な思いの残る今回の企画展でした。

 

 

 


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